現の証拠(げんのしょうこ) 10月も後半になると、どことなく冬の気配が漂ってくるが、秋も足踏み状態なのか、このところ朝夕の気温も安定して結構温かい。先日、今年は冬までエルニーニョが続くとの話を小耳に挟んだ。そのことでどんな影響が出るのか、調べてもよく分からないが、暖冬傾向に加え大雪にも注意が必要との話、ともかく、異常気象となることは間違いないようだ。
近年、季節の全てが今までと違ってきていると感じることが多い。それが、自然の大きな流れの一端なのか、以前から騒がれている温室効果ガス増加という人為的なものなのか、私では判断はつかないが、対策にビジネスが絡んでくると、情報そのものを勘ぐりたくなるのは、昨今の世の動きから致し方ないことなのか。どちらにせよ、この星の気候は、この星に生きる全ての生物に影響を与えるのは確か、できれば、例年通りの季節が巡ってくることを願っている。
 掲載の写真は「現の証拠(げんのしょうこ)」の種である。「現の証拠(げんのしょうこ)」といえば、民間薬として有名だが、種子を間近に見るのは初めてである。その形の面白さからカメラに収めたが、この形状は種子の散布方法と関係がある。最初は直立している花柱が、成熟するとゼンマイのようにまくれ上がり、下側についた種子を弾き飛ばすようだ。
こうして、自らの力で散布するものを「自動散布」と呼ぶらしいが、この「自動散布」の代表的なものに鳳仙花(ほうせんか)の仲間がある。触ると弾けるのが面白くて子供の頃、触って遊んだものである。
植物の種子の散布には、この自動散布の他に、風散布、動物散布、水散布、振動散布と、大きく5つに分類されるとのことだが、なんにしても、植物たちの、生きるための仕組みには、驚嘆させられることが多い。これも進化の過程で身に付いた、彼ら独自の“知恵”と言って良いのだろう。
 そんな植物たちの、“生きる知恵”に魅せられながら、ふと人の世に目を転じれば、経済発展という響きの良い言葉の中で、ただ忙しく消耗するだけの人の暮らしが見えてくる。先人が持っていたであろう、自然と共に生きるための知恵、その全てを忘れてしまったとは思わないが、現代社会を見る限り、その動きには“知恵”は感じられない。
 人はどこから来てどこへ行くのか。我々の中にまだ残るかも知れない僅かな“知恵”を、次世代を生きるものたちに残してやれるかどうか、今の己を見る限りあまり自信はないが、せめて、原発を始め、安保法案、リニア新幹線、TPP等々、どんなに贔屓目に見ても知恵があるとは思えない動きに対しては、はっきり異議を唱えて行きたいものである。
 山麓で見つけた、現の証拠(げんのしょうこ)の種を見ながら、そんなことを考えていた。まだ10月、秋はこれからが本番となる。
~現の証拠(げんのしょうこ)~
 わが国の各地をはじめ、台湾や朝鮮半島に分布。山野や道ばたなど、やや湿り気のあるところに生えて、高さは30cm~60cmになる。
7月から10月ごろ、長い花柄の先に2個の花を咲かせる。赤花と白花があり、西日本は赤花が多く、東・北日本は白花系が多い。秋には実をつける。種子の散布方法は自動散布。
下痢止めの民間薬として利用されるのは有名。語源は「効き目がその証拠」ということで付いた。
科目:フウロソウ科フウロソウ属の多年草
学名:Geranium thunbergii
英名:Dewdrop crane’s-bill、Gen-no-shoko
撮影日:2015年10月21日