一つ谷を隔てた向かい側からズームで撮影。撮影日:2013年6月15日6月も後半、空梅雨だった今月の前半、各地で水不足が心配される中、今週に入ってようやくまとまった雨になった。
今は田植えの時期、降雨量の少なさはかなり深刻な問題となる。幸い我が地域では水田が干上がるような事態にはなっていないようだが、この天候不順で農家は四苦八苦していることは確かだろう。
水田といえば、この「盆地に吹く風」も含め、その前身でもある「今日の一枚」の頃から幾度となく載せてきた棚田のことを思い出す。その最後の記事が2008年の10月に載せた「田んぼと地域と経済と」。その記事の掲載写真でも分かるが、下段の三枚ほどの田が使われなくなっていた。もう5年前のことだが、その棚田のその後が妙に気になり行ってみることにした。6月16日(日)のことである。最後に残った田の田植えの準備だろうか。撮影日:2013年6月15日上の畦道から撮影、このとき声をかけられた。撮影日:2013年6月15日
高台に車を止め、草の生い茂る畦道を棚田に向う。見えてきた棚田には猫の額ほどの広さの、一番下段まで苗が植えられていた。どうやら復活しているようだ。真ん中辺りに田植えをしているらしい複数の人が見える。早速、カメラに収めようと上のあぜ道からカメラを構える。2枚ほど撮った時だろうか、「怪しい人物!だれだー!」との声。離れているため顔の判別はつかないが、若そうな声である。「すみませーん、写真を撮らせていただいています!」と大声で答えると、「あっ、知らない人なんだ!はーい、分かりましたー!」。どうも田植えに来た人と勘違いしたようである。
その時、横で「こんにちわ」の声。振り向くと、大きななべを抱えた、高校生らしいジャージ姿の女性がこちらに向ってやってくるところ。「田植えですか?」の質問に「はい、自分たちで籾から苗にして植えたんです」との答え。推測する年齢から、学校の体験学習かなにかだろうと思い聞くと「いえいえ、参加したい人は誰でも良いんです」、「今日は少ないのですが、この前の田植えの時にはたくさんの人が来てくれました」と。どうやら有志が集まって、使われなくなった田を復活させたらしい。

昭和の時代、大国の思惑が見え隠れする中で、農地は工場などに変わり、農業国だったこの国は、経済大国として駆け上がるようにバブルに向っていった。その当時、この国の農業には夢が見えなかった。今、沈み行く経済への打開策なのか、或いはTPPへの対応なのか、企業化させ大規模農業へ移行させる動きが見える。そうなると、細々とやっている小規模農家は生き残れなくなる。
そもそも国土の狭いこの国の農業は、小さな農家が小さな土地を上手く利用する循環型だった。企業化して、マネーゲームで浮き沈みする、今の経済の中にさらすことは果たして良いことなのか。そんな疑問と疑念が頭の中を駆け巡る。

若者たちが復活させた小さな棚田。「頑張ってくださいね」と言う私に「去年は上手くいきましたから、もう大丈夫ですよ」答えてくれた彼女の笑顔に、昭和の時代、工業化の動きに疑問さえ持たず、バブルに向う経済の流れに竿を差していただけだった自分に、一種の“罪”のようなものを感じるばかりだった。私がその間違いに気付いたのは、人生後半になってからである。
今回、話の苦手なひげ面のおじさん、いやお爺さん?の質問に、屈託なく快活に答えてくれた彼女に感謝しながら、今の若者の農に対する考え方を垣間見たような気がして、少し嬉しくなった。「飯田の人ですか?」の質問に「はい、一応この地に住んでます」と答え、会釈をしてその場を後にした。この日の棚田訪問、その出会いと共に心に残るものとなったのは確かである。