10月も後半にさしかかる。最低気温も10℃を下回る日が出始めて、その冷え込みが秋の深まりを感じさせる飯田地方である。飯田の市街地を見下ろすように聳え立つ、(※1)風越山(ふうえつざん)の頂上付近は、まだ少しくすんではいるものの、すでに秋の装いが始まっている様子である。
そんな10月中旬に埼玉に住む友人が訪ねてきた。彼に会うのは3年ぶりである。私より四つほど若いが、3年前よりも人として一回り大きくなったように感じられて、一種の逞しさのようなものを感じた。
そんな彼と知り合ったのはチャットと呼ばれる、インターネットのコミュニケーションの場。通常チャットは、文字のみのやり取りで会話を交わすのだが、そのチャット、(※2)VRMLというモデリング規格を元にして開発され、己を自身を3Dキャラクターに置き換え、画面に広がる仮想空間の中を歩くことができる。当然、他の者に出会えば、タイピングによる会話もできる。
そんな視覚的要素がそうさせたのか、その空間を共有した者たちには、まるで同郷の仲間のような連帯感が生まれていった。多分、彼も私も同じだろう。
もともとチャットが苦手で、インターネットをそうしたことに利用することに懐疑的だった私にとっては、インターネットの新たな魅力を発見することとなったのは事実である。
残念ながらその3Dチャットは、数年前にサーバー維持が困難ということでサービス停止になり、そこに集っていた者たちは故郷を追われるように他の交流場所へ散っていった。

昨今、インターネットの通じたコミュニケーションと聞くと、あまり良い噂が聞こえてこないのが実状だろうか。誹謗中傷を始めとして、性犯罪、詐欺、殺人、思想統制等々。実状の社会が抱えている問題点を全て持っている。
ネットを通じてその向こう側にいるのは生身の人間、“人”だ。通常の社会と変わりはない。善しも悪しも存在する。安易に入り込むのは問題があるのは事実だが、むやみに規制すべきものでもないだろう。ネットの抱えている問題は、社会の、人の持つ問題点でもある。
インターネット。人、企業、地域、国と、世界中を垣根なく繋ぐ共通のツール。諸刃の剣ともなり得るこの新たなツールをどう使いこなすことができるのか、人間の真価が問われているのかもしれない。使い方を間違わなければ、人類の最良のツールとなるはずである。

(※1)風越山
正式名称は「かざこしやま」という。昭和24年、2つの旧制女学校を統合して作られた県立の飯田風越高等学校(いいだふうえつこうとうがっこう)の呼び名が浸透したためか、地元では「ふうえつざん」と呼ぶことが多い。別名、権現山(ごんげんやま)
(※2)VRML
バーチャル・モデリング・ランゲージ、ネット上で3DCGを使うための規格の一つ。仮想空間のウォークスルーができる。「Java」や「JavaScrip」などのプログラミング言語と連携させればユーザーがコントロールすることが可能となる。全盛期には3Dゲームや3Dチャットなどが登場したが、VRML97と言われるVer2.0を最後に衰退し、VRMLプレイヤーと呼ばれるプラグインの開発も行なわれなくなった。