飯田・リニア新幹線学習会、会場風景 撮影:2010年11月7日・管理人はや11月も中盤である。急激な気温低下から、一端は足踏みするのかと思った季節の変化だが、どうやらこのまま冬にまっしぐらの様子。山の麓は固より、街中でもすでに紅葉が進み、葉を落とし始めている木も目立つ。今年の短い秋も終わりに近づいているのだろう。季節の前倒しが感じられる昨今、冬の到来は早まりそうである。
10月の終わりのこと、一枚のチラシが郵便受けに入っていた。「リニアは夢の超特急?」とある。発行しているのは「飯田リニアを考える会」。11月7日に開かれるその勉強会の案内のようである。
「リニア」といえば、「Aルート」・「Bルート」・「Cルート」の3案で、県・地域・JRの間でもめていた。どうやら知らない内にCルートに決定したようだが、駅も作られるということから、ここ飯田下伊那地方は、他地域から地域民総意の大歓迎と受け取られているらしい。しかし周りからは、賛否を問う明確な声も雰囲気も感じられないのが実情。なんともこの地域らしいとは思うが、実際のところはどうなのか。本当にこの地域を通るとなると、やはり気になるというのが正直な気持ちだろう。本来、こうしたものにはほとんど出向くことがない私だが、そんなわけで、様子見だけでもと、出てみることにした。
さてその当日、開始時間少し前に会場に到着した私だったが、駐車場はすでに満杯状態である。道を隔てた第2駐車場になんとか車を停めることができたが、その間にも次々と同じ目的らしい車が入ってきたのは驚いた。駐車に時間を取られ、入室した時すでに講義は始まっていたが、広い会場内は、老若男女幅広い年齢層の人々で満員の状態。用意されていたであろうテーブル席は、すでに全て埋まっており、関係者が忙しそうに折りたたみ椅子を後ろのスペースに並べていた。仕方なく最後部あたりに陣取ったが、このリニア問題、思った以上に関心が高いようだ。

専門的な話の多い講義内容の詳細は割愛させてもらうが、簡単に言えば、環境面・経済面・安全面のメリット・デメリットの話である。渡された資料に載っていた、「利・害関係者の評価基準分け」は、立場によって見解が変わるためちょっと横に置くが、気になる環境面・安全面について注目してみたい。もっとも、環境面・安全面にメリットなど存在するはずがなく、すべて引き算となり、いかにその影響を抑えられるかという話になってくるのだが。
その中で、人類の存亡を左右するかもしれない影響を人体に与える可能性があるという「電磁波」の話はかなり興味深かった。「電磁波被爆」と呼ぶようだが、放射線同様に、生物の染色体や遺伝子にまで影響を与えるという。それは、まさに人類、いや、生物全体の存亡に関わる問題となり得るのは確かに思える。
考えてみれば、現代社会に住む我々は、電磁波の渦の中で生活しているようなものである、初め照明利用が主であった電気も、今や火を使わないオール電化住宅にまで到達している。当然、それだけ電磁波が増えているわけだが、その安全性はどうなのか。政府が認めなかったためにあまり騒がれてはいないということだが、送電線近くでは幼児のリンパ性白血病の発症率が他の三倍を超えるという。
昨今の身に付ける道具の類もまた、電磁波抜きでは語れない。耳元で電波を発する携帯電話が人体に悪影響を与えるという話は、決して耳新しい話ではないはずである。ヨーロッパなどでは、低年齢の子供の携帯電話の使用を禁止しているほどだ。
ただ、こうした話、どうした訳か我が国ではほとんど聞こえてこないのが実状のようだ。ヨーロッパなどでは電磁波から人を守る意味からもエネルギー面からも“電気の使用はなるべく控える”という動きになっていると聞くが、推進・促進の形しか見えてこないのがこの国だ。経済発展の妨げになることはあえて公表しないということなのか、公表されると非常に困る方々が居るのは確かなようである。

さて、話をリニアに戻すが、では、その発する電磁波を安全なレベルにするにはどうする必要があるのか。正確な情報が公開されないためはっきりとしたことはわからないらしいが、渡された資料ではドイツを例に周囲から300m以上離す必要があるだろうということである。そんな巨大な敷地を確保できるのか、地域の形態に及ぼす影響を考えると経済面の疑問も浮上してくる。
正直、今の段階でははっきりしたものが見えてはこないが、電磁波一つ取ってみても、人への、自然への悪影響はかなり大きなものになるのは確かなようである。移動時間を縮め、都市間を結び、経済発展を促すのが目的とすれば、抱えるリスクはあまりに大きい。
戦後、大国の思惑にも乗って、農を捨て工業化に走った。有名な議員の掛け声がそれに拍車をかけ、この国は弄繰り回されてきた。速さ便利さが全てとばかり、田畑を蹴散らし、森林を切り開いて、道路が、線路が延びていった。結果として、急激な発展を遂げ、国民の所得が上がったのは事実である。だが、頼みの経済が失速した今、残ったのは壊された自然に荒廃した里山。かつての農地は建物と道路に変わり、食糧の自給もままならぬ国となった。
非常に観念的な表現で申し訳ないが、よしんば安全面が完全にカバーされたとしても「もういいではないか!いい加減に目を覚ましてほしい!」私の正直な気持ちである。我々が子孫に残すべきはコンクリートに囲まれた、一見、綺麗・便利に見える街でもなく、時速400キロで都心と結ぶリニア新幹線ではないと思える。
「経済の発展は人の幸せにはつながらない」。ある経済学者の言葉がふと思い出された、そんなリニア勉強会だった。
寒くなるという今年の冬、不本意ながら電気・灯油に頼らざるを得ない今の己の生活を、ネット絡みの仕事を含めて考えさせられている秋の終わりである。